「モードレスデザイン 意味空間の創造」を読んで
- Iori Imai
- 1月9日
- 読了時間: 6分

2026年明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。
今回は、昨年読んで感激した本を紹介します。
「モードレスデザイン意味空間の創造」著者 上野学さん
専門書でもあり難しい本なので、分からない覚悟で読んだんですが・・・
映像制作者の私でも理解ができ大変勇気をもらいました。
この本は、ソフトウェアをはじめとする道具をデザインする方に向けられた本と思います。
実際にアプリケーションのデザインについてかなり書かれていますが、モノづくりをしている方全般に強くおすすめできる本だと思います。
それはテクニックというよりモノづくり・道具の本質を歴史、哲学などから多角的に証明しようとする試みだからです。
そしてドキュメンタリー映画制作にもかなりの共通項があり、ただただ共感しました。
その中でも面白かった項目を紹介します。
「矢を射ってから的を描く」
不思議じゃないですか、矢を撃つのに的を狙わないんですよ。
では真っ当と思える「的に狙いを定めて矢を射る」を
ニュース映像制作で説明してみます。
ニュースの映像はすぐに作らないといけないので
撮影前に仮原稿を作りあらかじめ撮影するものを決めます。
撮影現場ではそれに沿って撮影し、編集をして放送する。
この場合、「的」は仮原稿となり、「矢」は撮影と思います。
「的に狙いを定めて矢を射る」は真っ当に思えます。
しかし、「矢を射ってから的を描く」は全く逆のアプローチです。
そして実際の撮影現場では頭で考えた仮原稿の内容とは違う現象が次々と起こります。
そこで、魅力的だと感じたものを直感で次々と撮影していく、
そして、その撮影素材から、何を伝える事が出来るだろうかと考えます。
まさに「矢を射ってから的を描く」なんです。
このやり方は、時間はかかりますが、真実には近づく手法だと思っています。 本来、矢というものは、競技の中で「的」を狙うものではなく獲物や敵を倒すものです。
モノづくりとは、競技のようなルールがある中でするものとは離れた
自然の環境で手に入れた獲物で何ができるか考えるものなのかと思いました。
もう少し分かりやすく書くと
例えば「的に狙いを定めて矢を射る」は
「春」を伝えたいというテーマがあり
「春なので桜の花見」という仮説を立てて、桜の花見風景を撮影する。
それで「春」を伝えます。
この方法を演繹法とも呼べますね。
「矢を射ってから的を描く」は
暖かくなったこの現象はなんだろうと撮影をする。
素材には「桜」「つくし」「新芽」「ウグイス」が撮れたとします。
もちろん「春」も伝わりますが、「生命の息吹」や「自然の美しさ」など
撮影前には想定していなかった現象を伝える事ができます。
この方法は帰納法とも呼べますね。
演繹法、帰納法はどちらが優劣というものではないのですが
「モードレスデザイン 意味空間の創造」ではこの演繹法、帰納法を超えた
「アブダクション」という手法の提示があり、非常に勉強になりました。
あくまで私の解釈ですがアブダクションとは
先ほどの帰納法から得た「春」「生命の息吹」「自然の美しさ」から
更に一つのテーマ・仮説を見つけようというアプローチです。
これは、映画制作としては、表現者のリアクションだと捉えました。
形になったものに新たな目線を見つけ、提示するというアプローチです。
その提示が新しく、独自性があるものが作品の力になると思います。
ビジネスでは、最初に答えを作り、それに沿って作るのは合理的だと思うのですが
そうではなくて、創作とは何度も書いては消して、ようやく一本の線を見つけて形を発見し
更に自身の世界観をみせてゆく途方もない旅だと確証が持てました。 なので、自主ですがビジネスの映像制作だけではなく映画を続けていてよかったなとも思いました。
“泥を抜け 砂利を跨ぎ それでも進む 意味ある道を見つけ出す 何度も後戻りしながら 秘密の小径を探す必要がある” 引用:モードレスデザイン 意味空間の創造
「地図ではなくコンパスを渡す」
この言葉も響きました。
特に演出を考える上で非常に芯になる言葉です。
本書では目的地まで行ける道具として意義あるものは
地図ではなく、コンパスだと提示しています。
地図という、目的地までの道順が限定された使役的な道具ではなく
旅人がコンパスをたよりに自身の判断で自由に目的地まで行けるのが 良い道具だと解釈しました。
これは道具を使うユーザーの能力とユーザーへの信頼が必要になります。
このアプローチは演出のアプローチにもあります。
一般的に演出家は演者にシナリオを渡します
シナリオには、演者の行動とセリフが書かれ
当然の様にその内容に従い、細かなニュアンスは演出家が指示を行います。
これとは別に、インプロと呼ばれる即興演出があります。
シナリオもなければ、あらすじもありません。
演出家は存在しますが舞台の交通整理程度の役割で
基本的には演者同士がお互いを信じ、相互に作用させながら
お芝居を生み出していきます。
それは演者の能力の高さと信頼があってはじめて成立する演出技法だと思います。
インプロで作られたお芝居を見たことがありますが
演者同士が自由にそして勇気をもって演じる姿、演者自身の人間力、
そこから生まれる変幻自在の物語は非常に面白いものです。
この「モードレスデザイン 意味空間の創造」は560ページの大作で
上記のものはほんの一握りです。
紹介しきれないので本の内容を解釈しようと浮かんできた事を羅列してみました。
・お百姓さんは100の仕事が出来るらしいもんなぁ
・面白い人が面白いコンテンツを作る
・ロックやなぁ
・クライアントの要求を疑うのは正しかったのか、ホッとする
・あわいの思想のようでもある。
・唯識でもある
・モードレスな人がモードレスなデザインを作る
・面白いものって案外サクッと出来るよなぁ
・最後は体力、人間力のような気がする
・観客を信じて作る
・考えるより動いた方が作れる
・監督はテーマという手綱を決して話さない存在
・撮影道具のカメラもカメラを使おうから始まっていなくて
映画を作ろうから始まるよなー
余談ですが、なぜ創作をするのだという問いに
答えのような言葉が紹介されていました。
“行為を鼓舞する原理とは 行為の過程そのもののなかで ただ行為そのものが 演じられているときにのみ 完全に姿を現すのである。” ハンナ・アーレント
本書は著者がモノづくりで得た知識と 身体的な感覚をあらゆる角度から言語化しています。
モードレスデザインを極めようとした著者のたどり着いた景色と生き様が
モノづくりを続けたものへの光となっています。
よかったら読んでみてください。
あと、すごい勉強したくなった。
大学行きたい。



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