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  • 執筆者の写真Iori Imai

嗚呼、住民説明会

近所の巨大倉庫が解体され、その跡地にマンションが建設される事についての住民説明会が公民館で開催された。 雨が降っていた。 公民館に入ると、がたいのごついパンチパーマでスーツ姿の男(以下パンチ)が、苦虫を噛んだような笑顔で、住民1人ひとりに嫌に丁寧に 「今日は足元の悪い中わざわざありがどうごさいます。」と挨拶をしていた。 会場には住民50人程が席に座り、壇上には、施工主、工務店の代表者、パンチ、技術者、現場監督がいた。 パンチは部長だった。 始めに、工務店の代表者からの挨拶があり 「この度は2回目の説明会に足元の悪い中お集りいただきありがとうございました。前回は私どもの説明に不備があり大変ご迷惑おかけしました・・・・。」 聞くと1回目の説明では住民にこれといった根回しもせず、その日の説明会の数日後に工事を行う予定であったが、住民達から「聞いていない!」「挨拶がないとは何事だ!」と猛反発を受け、工事開始を遅らせ2回目の住民説明会に至った事が分かった。 説明会では、住民全員に工事の資料が配られ、それに基づき説明が行れた。 資料には工事に使われる重機、防音対策、壊わされる倉庫にはアスベストが含まれていない事を調査した証明書、工事で使われるトラックの道順などが書かれていて、パンチはそれを慣れない敬語で必要以上に頭を下げながら、説明していた。 「防音対策としてはですね、防音シーツを倉庫の周りすべてに設置させていただきます。それでも音が漏れる場合がございます。申し訳ございません。ご協力お願いします。」 「トラックの道順でございますが、本来ですと直進コースを走るのですが、近くに小学校がございまして、小学校の校長先生様とご相談をさせていただきまして、この様な順路にさせていただきました。申し訳ありません。」 など、異様にへりくだった感じで説明していく。 それでも住民達、特に老人は執拗に質問していく。 「音がどれだけの音量か分かる様に計測機をつけてデジタル掲示板を置け」 「工事の振動でウチの家にヒビが入ったらどうしてくれる!」 「保育園の開園時間に合せて工事の作業開始時間を遅らせろ!」 と、攻撃的な質問を何度も浴びせる。 それに対してパンチは顔を真っ赤にしながらも平身低頭で応えていく。 ここで住民の1人が用意周到と思われた資料に不備を見つける。 現場監督の連絡先が記載されていなかったのだ。 これに対して、住人達は鬼の首をとったとばかりにヤンヤヤンヤと場は大混乱。 しかしその場に現場監督もいたのでパンチは「資料に不備があり申し訳ございません、連絡先がないのはとんでもない事でございます。口頭で大変失礼ですが、こちらの現場監督からお伝えさせていただきます。」 ところがその現場監督、携帯電話を手にして、自分の番号が分からないらしく要領を得ない。 ついにパンチの我慢が限界を超え 「お前の番号言え言うとんのじゃ!!アホンダラ!!」 と怒鳴った。 会場に失笑が響いた。

なんとか現場監督の連絡先も住民に伝えたが、パンチでは役不足という事で公務店の代表が説明する事になった。 代表はオールバックでヒゲを生やし、金のメガネと金の時計で高そうなスーツを着ていた。 数々の修羅場を潜り抜けてきたのであろう、住民の執拗な質問にも丁寧に説明し住民も納得してきた様子だった。 こんな質問もあった。 住民「倉庫の隣にマンションがあるが防犯対策はどうなっているのか?」 代表「・・・防犯対策?・・一応作業が終われば現場にはカギをして入れないようにしておりますが。」 住民「そうゆう事ではなくて、昼間の作業中に倉庫を囲んでいる足場から作業者がマンションに入ってきたらどうするのか?」 代表「それは、ウチの者が足場からマンションに飛び移るという事ですか?」 住民「そうです、私は8階に住んでいるのでとても心配なんです。」 代表「いやっそんな事は・・・」 さすがの代表も言葉に詰ってしまうと、住民達は「そうだ、対策はどうなっている!」と場は再び混乱した。 すると、それまで終始黙っていた自治会長が発言する。 「えー、1回目の説明会では、ずいぶんといきなり工事をするという事で、我々も、それは寝耳に水でしたので、もう1度説明してほしいとお願いしました。今回は、非常に腰も低く、先程の足場からマンションに飛び移るという事はないと思います。 そして今は、倉庫に荷物を運ぶトラックが行き来しておりまして、非常に危険です。それがマンションに変わるのですから我々としては実は有難い事なんです。 工事の近くに住んでる方はしばらくは大変だと思いますが、我々も協力をしますので、安全に工事を運んでいただければと思います。」 その言葉に住民達は納得し、公務店側も感謝を述べて無事住民説明会は終了した。 公民館を出ると、それまで降っていた雨がやんでいた。 そして数日後、工事は開始された。 倉庫の周りには防音シートが設置され、危惧していた騒音も杞憂に終った。 工事から1ヶ月後。 その日は季節はずれの台風が日本に上陸。 外も歩けない程の強風が工事現場にも吹いていた。 そして、大きな音がドーンと響いた。 防音シートが強風にあおられ落下した。

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